2021/10/25 07:37

「フランスは日本のように運営されるべきか?」。これは、2022年4月24日に行われるフランスの大統領選挙で問われるかもしれない問題である。9月まで、フランス国民は、エマニュエル・マクロン大統領と、その挑戦者で極右政党「国民戦線」党首のマリーヌ・ルペンの対決に備えていた。

両人は、対立する陣営を代表している――エマニュエル・マクロン大統領は、フランスを自由貿易や人的交流にもっと開放することを提案する「グローバリスト」を、ルペンは、フランスの国境を強化し、移民や国際競争への対応を制限することを提案する「ナショナリスト」を率いている。

理想とする国のモデルは「日本」
マクロン大統領はなんだかんだ依然人気で優勢だが、先月から、エリック・ゼムールという『フィガロ』誌の元記者が、マリーヌ・ルペンを有力な対立候補の座から下ろし、代わってフランス社会の全面的な見直しを提案して、議論の中心に身を置いている。

フランスの共産主義者にとってソ連がモデルであったように、ゼムールのモデルはなんと日本であると最近のインタビューで彼自身が話している。

「この40年間、日本は移民を拒否してきており、結果失業率は3%程度だ。貿易黒字でもある。犯罪の少ない社会で、刑務所の収容者数は半分にすぎない。生産性も高く、ロボット化も進んでいる。これもすべては、日本が移民という安易な方法で問題を解決しなかったからだ」と説明し、記者たちを唖然とさせた。

フランスの名門「パリ政治学院」を卒業したゼムールは、『コティディアン・ド・パリ』紙などで働いた後、1996年から保守系日刊紙『フィガロ』で政治を中心にカバーしているほか、雑誌のコラムやテレビに出演するなど活躍。政治記者の経験を生かして、ジャック・シラク元大統領の評伝なども執筆している。

そんなゼムールのスタンスは、先のインタビューからわかるように、完全に「反移民」である。同氏は移民、特にイスラム系移民の受け入れ政策は、フランスのアイデンティティにとって致命的な脅威であると考えおり、移民受け入れは、メリットよりも問題点のほうがはるかに多いと主張している。

さらに、ゼムールはこうも考えている。移民コミュニティの人口における動きは、「ネイティブ」のフランス人に比べて非常にダイナミックなうえ、移民の生活様式はあまりにも従来のフランス人のそれとは異なっているため、フランス社会は、30年後には、敵対的で苦々しいコミュニティに深く分断された「大きなレバノンのような国」になってしまう――。

実際、フランスは過去50年間、人口と労働力の両面で移民政策をとってきており、現在フランスに住む人の7.6%が外国人である。フランスでは、外国人の人権は、家族と一緒に暮らす権利を含め、広く保障されている。不法滞在者であっても、出身国に強制送還されることはほとんどない。

日本とフランスの難民政策の如実な違い
翻って日本にはまだ公式な移民政策がない。積極的に外国人を受け入れることもなく、あくまでも一時的な労働力としてしぶしぶ受け入れているだけで、人権が保障されるべき存在とは考えられていないように見える。犯罪を犯した外国人は速やかに拘束される(これは外国人に限ったことではないが)。ひとたび有罪判決を受けて国外退去となれば、それがどんなに軽微な犯罪であっても、特別に許可が得られなければ一生日本に足を踏み入れることができない。

外国人に対する両国の考え方の違いは、それぞれの難民政策にも如実に表れている。日本は40年間で3550人の難民申請者に保護を与えているが、フランスは2019年の1年間に3万6275人の難民申請者を保護している。つまり、フランスは2019年の40日間で、日本の40年間と同じ数の難民を保護を与えている。

一方、治安については議論の余地がないほど日本のほうが安全だ。フランスから日本を訪れた人は、つねに清潔で秩序が保たれていることに驚かされる。6歳の子どもたちが学校帰り、午後遅く1人で東京の道路を横断する光景が日常的に見られるのにフランスからの訪問者は目を疑う。フランスに帰国すると、パスポートをなくしたり、財布を忘れたりしても、後で奇跡的に無傷で戻ってきたという思い出話をする。

フランスでは、今や強盗はインフルエンザと同じくらい一般的な出来事のようだ。国連が発表した薬物と犯罪に関する最新の数値によると、2016年のフランスの人口10万あたりの強盗発生率は日本の88.5倍にもなっている。

「この前、パリの一流ホテルに泊まったとき、バスルームにバスタブの栓がなかった。フロントに理由を尋ねると、『客がよく盗むから』との回答だった。言うまでもなく、彼は新しい栓を用意してくれなかった」とパリから戻ったフランス人の友人が先月話してくれた。

ゼムールは、日本の強い製造業についてもうらやましく思っている。世界銀行によると、日本のGDPの29.1%を占める製造業が、フランスでは16.3%しか占めていない。貿易に関しては、日本は過去30年間のうち25年間は貿易黒字を記録している。一方、フランスは2005年以降、ずっと貿易赤字を出し続けている。

失業率についても、日本はOECD諸国の中で最も低く、フランスは最も高い水準にある。過去30年間で、日本の最高失業率は2002年で、そのときは5.4%で天井を打っている。同じ期間、フランスの失業率は7%を下回ったことがない。最新の統計では、日本の失業率は2.8%、フランスの失業率は7.9%となっている。

日本のことを実はよくわかっていない?
もっとも、ゼムールは日本に一度も足を踏み入れたことがない。彼は、日本の社会モデルの欠陥、すなわち、人口動態のデス・スパイラル、女性の社会的地位の低さ、若者の絶望などを見ていない。日本の生産性は、製造業を除いて決して高くもない。

フランス人は彼の「日本礼賛論」を受け入れるだろうか? 世論調査によれば、その可能性がないわけではない。ゼムールは現在、すべての世論調査で投票動向の2位か3位につけている。つまり、もし今日、大統領選挙が行われるとしたら、彼は第2ラウンドに進む資格を得て、マクロン大統領と対戦し、彼を打ち負かす可能性があるということだ。

フランスの歴史上、これほど急速に人気を博した候補者はいないと、すべての世論調査機関が認めている。同氏はすでに、移民と安全保障を中心に大統領選挙を大きく変えている。確かなことは、彼の政治プログラムによって、フランスが見習うべき社会のモデルとして、日本にスポットライトが当てられるということだ。

非常に分裂的な人物であるゼムールは、フランスでは崇拝されると同時に嫌われてもいる。同氏の集会は、2016年のドナルド・トランプ前アメリカ大統領のキャンペーンのように、暴力的に支持者と反対者を対立することが多くなっている。

ゼムールの反対勢力の1つが極左だが、大統領選には極左も立候補しており、ゼムールはこうした候補らに「人種差別主義者」と呼ばれている。ゼムールにとって極左は「敵」だ。もし極左が大統領選に勝利し、ゼムールが亡命せざるを得ないようなことになれば、同氏は自らが「モデル国家」としている国で難民申請をすることができる。そう、日本だ。


行動を後押しするブログ【hidedonblog】