2021/10/08 06:47

起業初期の事業計画は邪魔
『創造思考』の中に「遊ぶことは正義」という節があります。音楽の創作活動において、いかに自由に遊ぶことが大事かということが書かれているのですが、これは本当に起業にもいえることです。起業も「楽しい創造的な取り組み」だから、目いっぱい遊んで楽しむべきなんです。でも起業家の中には、遊ぶこと、楽しむことに対して罪悪感を抱いたり不謹慎だと考える人もいるわけです。「そんなことやってる場合か」「まじめにやれ」と。

もちろん、成功させることも収益を出すことも大事ですが、そもそもやっていて楽しいと感じられないなら、起業する意味がないと僕は思います。「遊びじゃないんだ、ちゃんとやれ」みたいなことを言う人もいるけれど、遊ぶからこそ、楽しんでるからこそ良いものが生まれるのです。そんなことを言われたら、僕なら逆に、「仕事じゃないんだぞ。こちとら遊びなんだ。真剣にやれ」って、言いたいですね(笑)。

その意味では、あまり計画に囚われすぎないでほしいと思います。遊んで、脇道にそれて、そうした自由で楽しい活動こそが起業家のあるべき姿で、事業計画に縛られている場合じゃないんです。特にアーリーステージでは、事業計画は、邪魔でしかない。

事業の初期の段階ではほとんどの場合、プロダクトやサービスが、まだ本当に良いものになってないわけです。「プルーフ・オブ・コンセプト(PoC)」という言葉があるのですが、つまり、自分たちが最初に思い描いたアイデアや製品を、実際に作ってみて、本当に人が喜んでくれるものになるか、共感してくれるものになるかを検証して、実際に受け入れられるものを作っていくというプロセスが必要になります。まずこの作業を経て、本当に良いものを作らないことには、その先の成長も拡大もないわけです。

銀行とか信用保証協会とかベンチャーキャピタルは、こうした初期の段階でも起業家に対して「計画を出しなさい」と言うわけですが、音楽の制作と一緒で、本当に良いものを作ろうと思ったら、計画通りにやるなんて無理なんです。試行錯誤してみないと、ほんとに良いものができるかどうかわかりませんから。

作ってみたけど、思ってたよりも面白くないものになったということも普通にあります。面白くないんだったらもう1回作り直したり、当初のアイデアを1回捨ててスクラップ・アンド・ビルドしたりと、いろいろ試行錯誤する必要があります。なのに「リリース日に間に合わせなきゃ」「これで締め切りぎりぎりだから、次の資金調達して、営業に製品リリースの準備をさせて」などと計画に追われることには、何の意味もありません。製品やサービスが面白くないのに、リリース準備もマーケティングも営業もへったくれもない。

僕が出資者なら、面白いものがまだできていないのに「スケジュールを守りました」「マイルストーンをクリアしたから次の予算ください」と言われても「誰が出すか」という話になります。バンドに例えれば、まだ1曲も作品ができていないのに「これから作曲始めて、今年の暮れにはツアーを組みます」と言っているようなものです。曲ができるかどうかもわからないのに、ツアーを組めるかどうかなんてわかりません。

計画が面白さを殺す
『創造思考』の中でも、たとえばビョークの「心のシグナルをとらえる」という創作プロセスが紹介されています。他にも「カギとなる一言を探し当てる」とか、そういう話がたくさん紹介されていますが、「心のシグナルをとらえる」とか「カギとなる一言を探し当てる」って、起業にも通じる大切なことなんです。

そして、計画を立てれば立てるほど、こうしたことはうまくいかなくなるんです。なぜなら、一度計画を立てると「計画通りにやらなきゃ」という心理が働くからです。そうすると、たとえどこかでシグナルが「ピカピカ」と光っていても、それを無視してしまいがちです。なぜなら、そんなシグナルにいちいち反応してたら、計画通りに進まなくなるから。「なんか光ってたけど、もう次に行かなきゃ」となってしまうのです。

計画に縛られていては、みちくさなんかできなくなるわけです。秒刻みで行程を決められた旅行みたいなものです。「この道、何か面白そうだから入ってみたいな」「この店、変わったものが売ってるな」と思って覗こうとしても、「そんな時間ないです。もうバスが待ってます」と言われて次のバスに乗らなきゃいけない。何のための旅なんですかっていう。

それはもはや旅行ではありません。予定通り、時間通り、交通機関を乗り換えて移動しているだけ。ただの「移動」であり、交通機関を乗り継ぐという「作業」でしかない。

何のために起業するのか。誰のためにビジネスをするのか。そこを置き去りにして計画を守っても意味がないだけでなく害にすらなりえると思います。

後半は計画の鬼になる
もちろん、僕は計画そのものをすべて否定しているわけではありません。プルーフ・オブ・コンセプトができて、みんなが「これ良い!」「これを多くの人に届けたい!」という段階になれば、次は「なるべく安く作る」「たくさん作る」「スケールさせる」といったフェーズに入ります。そこからはプランニングをしないとうまくいきません。

そのフェーズに入ったら逆に、プランニングこそ命です。僕自身「プランニングの鬼になれ」「計画が甘い」と徹底的にはっぱをかけまくります。

でも、アーリーステージでは事業計画書とか持ってこられても、「君たち、まだ何もできてないじゃん」としか言いようがありません。自分たちで計画を立てて、ダメなものを作っても試行錯誤を許さないように自分たちで縛ってしまっていては、起業においてこれほど残念なことはないといえるでしょう。

起業家の使命は、今あるもののちょっとした改善ではなく、今までになかった新しい商品やサービスを生み出すことです。そのためには創造的な思考や閃きが求められますが、それは計画を立てて、その通りに達成できるようなものではありません。時間を忘れて没頭して考えたり、好奇心の赴くままに活動範囲を広げていく中で、偶然何かを見つけたり、インスピレーションを得たりして、たどり着くものなのです。そうした過程を経て生まれたものでないと、世の中を変えることはできないでしょう。

僕が起業において「事業計画は邪魔」「仕事じゃないんだぞ。こちとら遊びなんだ。真剣にやれ」と言っているのは、こうした理由があるからです。


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