2021/10/03 06:55

スタバもセブンも採用
本来、店舗はある程度距離を置いて出店したほうが、店舗商圏が広がり、中間に存在する顧客の取り込みも可能となるため効率がよくなります。しかし、それとは逆に、地域を限定してわざと店舗を密に配置するビジネスモデルがあります。

それが「地域ドミナント」です。

地域ドミナントは、ある限られた地域内に集中的に複数の店舗を出店して競合が入って来る隙間をなくし、地域の顧客や需要を総取りするビジネスモデルです。「いかに競合がいない空間を作り出すか」ということは、ほかの優れたビジネスモデルにも共通して見られる重要な思考です。

スターバックスはこのビジネスモデルを採用していることで有名です。セブン-イレブンも明確にこのビジネスモデルを採用するとしています。

西松屋は、「ドミナントエリア」を設定して出店していますが、店舗の売上高があらかじめ定めた目標を超えると、その店舗とわざと顧客を共食いするようにもう1店舗出店すると言われています。これによって競合が入り込む隙がなくなるのと同時に顧客がゆったりと買い物ができ、しかもレジでの待ち時間がなくなって顧客の満足が上がり、ひいてはリピートにつながるとしています。

地域ドミナントでは、地域を選んで集中的に出店します。競合の出店余地を封じるほど密に出店するわけですが、多くの場合、さらに進んで西松屋のように自社の店舗間で顧客の共食いが起きるほどに密集して出店してしまいます。顧客の共食いにより店舗効率は落ちますが、競合が入って来る可能性はさらに低くなります。

共食いにより1店舗当たりの売り上げや利益が減ることになりますが、一方で、地域を独占できれば競争がいなくなるだけではなく、オペレーション面で大きく効率を上げることが可能になります。

まず同一地域に店舗が密集しているので、配送の効率が上がります。同一のトラックでより多くの店舗への配送が可能となりますし、店舗間融通もしやすくなりますので、在庫も抑制できます。チラシや看板などの広告効率も上がりますし、地域の人たちは同じ地域で自社の店舗を何度も見ることになりますので、地域での自社のプレゼンスが上がり、地域の人たちの意識に強く焼き付くことになります。さらに、地域需要を独占できるので、店舗間で顧客がスイッチすることによる売り上げ変動が地域全体として吸収され需要が安定し、会社全体の業績が安定するだけでなく、在庫圧縮などの点でもメリットがあります。また、要員の融通も可能になることもあります。

副次的な効果ですが、西松屋が意図しているように店舗の効率が落ちることによって、顧客の待ち時間が少なくなったり、店舗内をゆったり使えるようになることもあります。その結果として顧客満足度が上がり、それがさらに顧客の確実な来店を促すことになるのです。また、ゆったり買い物ができることによって顧客の滞留時間を上げることができれば、それがさらなる購買や店舗選択につながります。

一見すると経済的に非合理
このビジネスモデルが面白いのは、個々の店舗ごとに考えると、一見経済的に非合理的な行動をしていることです。そのため、店舗の売り上げをわざと落とすということがこのモデルを採ることを躊躇させる心理的なハードルとなっています。

普通の経営者であれば、1店舗当たりの売り上げを最大化しようとするでしょう。この合理性の誘惑に勝てず、距離を取った出店をするとどうなるのか。少なくとも当初は、機能するように見えるでしょう。しかし、こうした合理性の罠にはまって店舗間の距離を大きく取り、売り上げを最大化しようとしたとき、このビジネスモデルの崩壊が始まるのです。

地域ドミナントは各個店の売り上げや利益をわざと落とすモデルなので、フランチャイズとの親和性が悪いとも言われています。フランチャイジー(店のオーナー)としては、チェーン店からテリトリー保障をもらい、自身の売り上げを最大化しようとするため、自身の店と共食いするような出店は通常許しがたいものです。

実際、スターバックスはすべてを直営店で運営しており、フランチャイズで運営した場合に起こるであろうフランチャイジーからの過密な店舗展開による店舗効率の低下のクレームを防止しています。

セブン-イレブンはフランチャイズとして運営しているのですが、同社は集中出店することにより顧客心理が変化し、顧客によるセブン-イレブンの利用率が上がる、つまり店舗を密に展開することにより競合がいなくなるだけではなくスーパーなどほかの小売業態との間の優位性も変化し、結局は個店の利益も高まるという説明をしています。

ネット時代こそリアルを制す
地域ドミナントは本来、地域を選択して多店舗展開しゾーンディフェンスするビジネスモデルですが、イオンのように商圏内の需要を総取りできるような地域、つまり孤立した地方都市にモールを展開してほかの小売事業者をことごとく駆逐してしまい、地域の需要を総取りするモデルも同様の発想に基礎を置いています。

また、土地や場を独占するという意味では、店舗ではなく自動販売機などでも同様なモデルを成立させることは可能です。オフィスグリコのように、オフィスに菓子箱を設置したり、富士薬品の配置薬のように家庭に薬箱を設置して、その空間における需要を独占するというモデルも、同様の発想の基礎に立っているということができるでしょう。

地域ドミナントは、物理的・地理的な空間が作り出す非対称性が、戦略に利用可能だということを示しています。インターネットによってさまざまな競争上の障壁が取り払われ、競合の侵入を防ぐ手立てがなくなっている(市場が徹底的に均質でフラットになっている)現代において、物理的な(リアルな)空間は、いやむしろ物理的な空間のほうが、競合の侵入を防ぐための有効な手段となりえます。戦略を立案するにあたっては、リアルな空間を利用して競争優位が作り出せないかを考えてみるべきです。

このビジネスモデルは意図的に店舗効率を落とすことによって競合優位性を上げるというように、部分的に非合理な行動を意図的に行うことによって、かえって強いビジネスモデルを作り出すことができる好例です。このように、モデルのある要素を単独で見ると非合理だが、それがほかの要素を強化することにつながり、全体として強くなっているものがほかにもいくつかあり、ビジネスモデルというのは全体で考えるべきで、部分だけの合理性を求めるべきではないことをよく示しているということができます。


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