2021/09/25 06:34

「自助努力ではどうしようもない。政府が国民に外出するなと言う以上、マーケティングも無意味」

「緊急事態宣言が出ている間はもうだめだ、首都圏はどうにもならない――」

自粛要請で集客すらできない状況が続き、ホテル会社幹部は怒りと諦めの声を漏らす。

あの帝国ホテルも赤字
ハイシーズンを潰され続けた業界に回復の兆しは見えず、ついに困窮極まりつつある。東京、大阪を中心とする都市部の不振は深刻だ。シティホテル全体の稼働率(観光庁調べ)は4月が29%、5月は23%、6月も28%にとどまった。感染者数が激増したことで出張は自粛。音楽ライブなどのイベントも中止され、観光需要も消失した。

御三家の一角・帝国ホテルの2021年4〜6月期決算は、約30億円の営業赤字。客室稼働率は2割を下回った。婚礼は件数こそ増加したが、列席者を親族に限定するなど少人数化が著しい。法人宴会も停滞したままだ。

「リーガロイヤルホテル大阪」を運営するロイヤルホテルも、25億円の営業赤字に終わった。大阪の稼働率は約25%と低い。

ビジネスホテルも全体の稼働率は40%付近の推移だ。同業態は「競争が厳しく稼働率が80%を超えないと値上げできない」(業界幹部)と言われており、到底黒字化できるレベルではない。

黒字を確保する郊外型ホテルもあるが、本来の価格水準には戻せていない。当面は地域や近隣ホテルの価格をにらむ、1円単位の消耗戦が続く見通しだ。

東京、大阪にまして厳しいのは京都だ。国内観光客の戻りは極めて鈍く、6月の宿泊施設の稼働率は17.3%。全国最下位の奈良と同レベルだった。

予約サイトをのぞくと、価格崩壊の実情は衝撃的。大手ビジネスホテルでもツインルーム宿泊で1泊3000円台(2人利用)。中には7連泊以上で1人1泊1400円(同)のプランもある。秋の行楽シーズンでも、需要が復活するとは見ていないのだ。

横浜のシンボルが債務超過に
首都圏では横浜も価格下落が目立つ。高級ホテルであっても1人1泊1万円を下回り、5000円台のプランすら散見される。

直近までみなとみらい地区は開業ラッシュだった。2019年に2300室超を誇るアパホテルやインターコンチネンタル横浜Pier8が出店。2020年にはオークウッドスイーツ横浜、さらにカハラ・ホテル&リゾート 横浜も出店している。

訪日客やMICE(大規模国際会議や見本市などを開く施設)、都市開発による需要をつかむ目論見はコロナによって砕かれた。「外資を含め供給がかなり増えたが、横浜は日帰り客も多く、過剰になっている」(横浜のホテル幹部)。

そんな中、1991年に開業し地域のランドマークでもある「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」(運営会社・横浜グランドインターコンチネンタルホテル)は大幅な需要減が影響し、2020年12月末、債務超過に転落している。

昨年来、銀行借り入れや融資枠(コミットメントライン)を設定し、資金確保に動いた企業は多かったが、資本増強策に乗り出すケースも相次いでいる。

一時債務超過寸前となり、3月に宴会場の太閤園を創価学会に売却した藤田観光。同社は9月、日本政策投資銀行の飲食・宿泊業向け支援ファンドから150億円を調達する。京都ホテルも9月に同ファンドから10億円、6月末で債務超過となったホテル運営会社のグリーンズも10月に60億円を調達する。

ただ、懸念されるのは、これからは大幅なコスト削減が見込めない点だ。家賃減額や清掃など業務委託費の見直し、社員出向、雇用調整金の活用など、多くの企業がすでに手を尽くしている。

変異株の脅威も続く。デルタ株が蔓延しミュー株も確認されるなど、水際対策には期待できない。感染者数が増える冬を前に、宿泊業もより厳重な対策や制限を課される可能性がある。

つまり、ワクチン接種が進んでも業況は好転せず、負のスパイラルに陥るリスクがある。

状況次第で倒産急増も
「金融庁などが資金繰りを支援するように指針を出しても、銀行は不良債権を抱えるわけにはいかない」。銀行出身のホテル幹部が語るように、今後は人員削減や店舗閉鎖など、踏み込んだリストラ・構造改革を実行できなければ、借り入れや資本増強策の難易度は増していく。

足元では銀行の返済猶予等で倒産件数が急増しているわけではないが、今後は注意が必要だ。

帝国データバンク情報部の田中祐実氏はこう語る。「コロナ緊急融資を受けた企業は借り入れが増え、追加の融資を断られるケースも散見される。追加の資金が出ない状況が続けば倒産件数が高水準で推移する可能性もある」。その一方で、余力があるうちに廃業や事業売却を選択するケースも増えているという。

緊急事態宣言のたびに回復シナリオは遅れ、宿泊需要の停滞は長期化している。有効な策を見いだせない中、ホテル業界は一段と過酷な生存競争に突入している。


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