2021/09/22 05:50

2022年2月の北京冬季五輪で世界にお披露目することを目指し、中国は「デジタル人民元」の発行準備を着々と進めています。主要国では初めての中銀デジタル通貨、つまりデジタル形式での法定通貨の発行です。

ところが、その具体的な仕組みや発行の狙いなどについては、依然として謎の部分が多くあります。

中国がそれらを明らかにしないのは、デジタル人民元が国家戦略と深く関わっているからにほかなりません。デジタル人民元の開発が、米中対立が激しさを増し、新冷戦構造ともいえる状況に陥っていることと同時に進んできたのは、決して偶然ではありません。

デジタル人民元はまさに米中対立の産物であり、また、アメリカの通貨・金融覇権に挑戦する中国の切り札でもあるのです。

今回は、そんな「デジタル人民元」発行を目指す中国の狙いを明らかにします。

中国では、アリペイ(Alipay)とウィーチャットペイ(WeChat Pay)という2つのスマートフォンのQRコード決済が、すでに国民の間に広く浸透しています。それなのになぜ、中国はデジタル人民元の発行を急ぐのでしょうか。

中国人民銀行は、2014年にデジタル人民元の研究を始め、2016年には、時期を特定せず、中期的にはそれを発行する考えを明らかにしていました。その発行計画を一気に前倒ししたのは、2019年6月、フェイスブックが新型デジタル通貨リブラ(現ディエム)計画を発表したことが要因として考えられます。

リブラは、主要国の法定通貨にその価値を連動させることで価格が安定するように設計されているのに加え、世界の人口の3分の1程度に相当する利用者がいるフェイスブック関連アプリ上で利用できることから、それ以前の仮想通貨(暗号資産)とは異なり、国境を越えて世界で幅広く使われる可能性が出てきたのです。

しかしこれに対し、先進国の金融当局は、リブラが各国の金融政策、金融システムに悪影響を与え、またマネーロンダリング(資金洗浄)等の犯罪に利用されることを強く警戒しました。

中国もまた、さまざまな理由からリブラが中国国内や周辺国で利用されるのを恐れたのです。その後、中国は、リブラを念頭に国内での仮想通貨の利用を禁じました。

デジタル人民元発行の狙いは何か

狙い①人民元の国際化という国家戦略
では、中国が周辺国でリブラが広く利用されることを強く警戒した理由は何でしょうか。それはおそらく、人民元の国際化という国家戦略の大きな障害になると考えたからでしょう。

当初のリブラ計画では、リブラの価格のおよそ半分はドルで決まる設計となっていました。中国にとって、リブラはデジタル形式の法定通貨ドル、いわばデジタルドルに近い存在だったのです。国内でリブラを禁じても、それが周辺国では広く利用され、通貨面で囲い込まれることを中国は恐れました。

中国は、デジタル人民元を発行する狙いを明確にしてはいませんが、デジタル人民元発行を起爆剤にして人民元の国際化を進め、アメリカの通貨覇権、金融覇権に対抗することに最大の狙いがあると筆者は考えています。

リブラは、そうした計画の大きな障害になる可能性があったことから、中国はデジタル人民元の発行計画を早めた可能性が高いです。デジタル人民元発行の底流には、近年激しさを増す米中対立があるのです。

狙い②金融プラットフォーマーへの牽制
ただし、デジタル人民元発行の狙いは、それだけではないでしょう。2番目に重要と考えられるのが、アリペイ、ウィーチャットペイの影響力を徐々に低下させていくことなのではないでしょうか。

決済アプリのアリペイを提供する金融プラットフォーマーのアント・グループなどが、伝統的な金融機関のビジネスを圧迫しながら巨額の利益を挙げ、独占状態を築き上げてきたことを強く牽制する狙いがあると考えられます。

実際、当局は、2020年末から電子商取引最大手のアリババグループとその傘下にある金融会社のアント・グループへの規制を一気に強め、まさにアリババ・アント帝国の崩壊を図っているかのようです。アリババグループ、アント・グループが持つ大量の個人データを国家が吸収して、国民の統制に利用する狙いもあるのかもしれません。

このほか、デジタル人民元発行の目的には、紙幣の偽造対策、紙幣を用いた犯罪に関連する取引への対策なども含まれるでしょう。

しかしいずれにせよ、なぜデジタル人民元を発行するのか、その狙いを中国当局が対外的に説明することは今後も考えられません。それは、想像力を持って多方面から推察していくほかないのです。


行動を後押しするブログ【hidedonblog】