2021/09/01 06:33

近年、“決済”に注目が集まっている。日本では伝統的に“現金”決済が強く、2000年あたりでは全決済に占める“現金”決済の割合は約7割程度、それに次ぐ“クレジットカード”決済が約2割程度であった。これは当時、金融関係業務では銀行が力を持っており、銀行がクレジットカードを拡販していたことが一因とも考えられる。その後、“電子マネー”(前払い式支払い手段)や“デビットカード”も少しずつ増加していった。

決済は、銀行法によって「固有業務」として銀行に限る、というのがそれまでの一般的な考え方だった。しかし、2009年に「資金決済法」が制定され、銀行以外も決済を行えるようになるなど規制緩和が進められた。

金融(Finance)と技術(Technology)の合成語として“フィンテック”(Fin-Tech)という言葉が作られ、まさに金融機関以外の企業が“決済”業界に参入してきた。ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)もフィンテックに含まれる。ビットコインは当初は廉価な“送金”(決済)のために作られた金融商品であった。

さらに、経済産業省がキャッシュレス化の調査・検討を行い、その方針「キャッシュレス・ビジョン」を2018年に発表、日本でキャッシュレス化が政策として推進されることとなった。

現金以外の「キャッシュレス決済(支払い)手段」は、モノの購入とお金の受渡を意識しており、①電子マネー(前払い)、②デビットカード(同時払い)、③クレジットカード(後払い)の3つがある。この“モノ”の購入の推進があることに、金融庁ではなく、経済産業省が進める意義があり、これらの決済手段を拡大させていくことになる。

金融業界とフィンテック業界では、“言葉”も違う。例えば、金融業界ではお金の支払いにより商取引が終了することを“決済”というが、フィンテック業界ではモノを買うときにお金を払うことを“決済”といい、いわゆる送金は“支払い”という。

そのキャッシュレス決済であるが、その媒体は、最近こそ「スマホ(スマートフォン)決済」が伸びてきているが、決済手段でスマホ決済というものはない。QRコード決済というものもない。それらはあくまでも前述の3つの決済手段の媒体なのである。そのため、ここでは、スマホ決済は“カード等”として3つの決済手段に内包することとする。

3つの決済手段は、その“カード等”を持っていることが、本人確認ともなり、(最近では暗証番号がなくてもある程度)対応が可能になる。紛失の場合には、カード会社への即時の連絡が義務づけられており、悪用されないようその機能を停止する。

その本人確認の基本はそのカード等を“保持”(保有)していることである。それが本人確認のベースとなる。もちろん、最近ではさまざまな取引のときに“写真付き”を求められるようにもなりつつあるが、まだそこまでは至っていない。

近年、AI(人工知能)の一環として「生体認証」の発達が著しい。顔認証のほかにも、指紋・虹彩・声などの生体情報を使用して、正確に本人確認を行うものだ。顔認証自体が高度化し、空港の入口では、顔認証によって問題のある人の入場を防止し、安全度を高めている。最近の顔認証は、瞳の間、骨格等、化粧や変装では効き目がないレベルである。

本人確認ができることによって、企業でも、保安上の対応をはじめとして、金融取引なども可能となってきている。そして、さらには本人確認によって、クレジットカードのような、クラウド的に保管されている“個人の信用”に基づく取引が可能になる。すなわち「カードレス」で取引が可能になる。

さらに、最近では、日本でも東京駅近辺では、顔認証によって広域でさまざまなビルの入館管理が行われようとしている。「カードレス社会」の到来が実際に始まりつつある。これはこれで非常に手間が省け、便利になることは間違いない。しかし、さまざまな物事はプラスとマイナスの面を併せ持つものである。

このような「カードレス社会」すなわち「デジタル化された社会」では、例えば顔認証の本人確認が一般化し、個人の行動がデータの“中央管理機関”に収集されるというリスクがある。それはその中央管理機関がわれわれにとってネガティブな行動をしなければよいが、もしも、そうではないときにはプライバシーの問題になる。いわゆる〝デジタル化”の問題である。

歴史的に見ても、戦前のドイツなどは不法な手法によって、個人情報を収集し、社会的に個人の弾圧に使用した。そのような過去によって、欧州では個人情報の管理には非常に敏感な対応をしている。日本も基本的には欧州に近い対応をしている。

顔認証による本人確認に近いものとして、中国が試行を進めるデジタル人民元がある。22年2月の冬季オリンピックまでに正式導入をしたいとして国を挙げて推進している。これは管理(統制)が厳しい中国であるからできるわけで、日本を始めとした“いわゆる先進国”では、一部の方々に誤解があるが、デジタル通貨はこのような個人情報の問題から導入は困難であるし、導入の予定はない。あくまでも“前向き”な分析・検討の段階にとどめている。

「カードレス」社会においては、例えば金融取引にとって、取引の“開始”である「本人確認」は非常に大事な意味を持つ。とくに「生体認証」の本人確認は重要な役割を果たすとみられている。実際に導入が開始されている。小職が勤務した銀行でも、オフィスでは一部、約10年前でもすでに生体認証(指紋)が導入されていた。一般企業のオフィスの入館チェックの顔認証も同様である。

金融取引でもATMで指紋認証や静脈認証で本人確認が導入されている。ちなみに、日本人は指紋認証の登録には、警察における指紋登録を思い出すようで、抵抗感があるようである。しかし、世の中の進行は早い。今やスマホの本人確認として普通に生体認証が使われている。このように顔認証などの生体認証に抵抗感がなくなっていくことが、すなわち「カードレス社会」の必要条件である。

しかし顔認証などの生体認証などで金融取引ができる「カードレス社会」もいいことばかりではない。生体認証とはそもそも“変えられない”その人に唯一無二の身体的特徴のことである。

これが何であれ、生体認証が犯罪者に一度盗まれると、大変困る事態になる。顔にしても、指紋にしても変えられないからである。逆に、この生体認証のベースとなるAIシステムの管理こそ厳格に行わなければならない。これは本人確認に限らず、ほかのデジタル化された情報でもいえることである。

次に来る「カードレス社会」では、生体認証に基づく本人確認がその根幹をなすため、クレジットカードをはじめとしたあらゆるカード等を持たなくてよくなる一方で、リスクも生じることになる。そもそも〝デジタル化”とはそういうものであるが、利便性とリスクは表裏一体なのである。


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