2021/08/07 06:23

自動車保険のトレンドがめまぐるしく変わっています。

これまでは自動車保険の金額を算出する際には、走行距離やゴールド免許の有無といった免許のステータス、事故歴、自動車そのものの安全性など、これらの情報を申告者であるドライバーが紙の書類、あるいはインターネット型の自動車保険でも同じく、パソコン上に自身で記入していました。

つまり情報の正確性が、ここでも十分ではありませんでした。とくに距離です。年間の走行距離が何万キロなのか、正確な距離を把握しているドライバーはメーターを確認しなければほとんどいないと思えるからです。

さらに言えば、ふだんの運転の状況。具体的にはスピードを出すタイプなのか、逆に、つねに制限速度を守るタイプなのか。ブレーキの踏み方は適切か。出だしに急にアクセルをふかしたりしないか。もっと言えば、オイルやタイヤなど消耗品類は定期的に交換しているか、車体のメンテナンスはしっかりと行っているか、など。

自動車ならびに運転状況に関するデータが詳しくかつ精緻に取得できるほど、より詳細な保険となることは明白です。そして今の自動車、正確には1996年以降に製造された自動車にはすでにこのようなデータを取得できる仕組みが備わっています。

「OBD2ポート」という仕組みで、もともとは車検に使う仕組みです。このポートにネットワークにつながるIoTデバイスを装着すれば、先述のデータがタイムリーかつ、車から離れた場所でも取得することができます。

スマートフォンのGPSやスマートフォンのカーナビアプリに内蔵されている、安全運転評価サービスのような仕組みでも、OBD2ポートからのデータほどの正確性はありませんが、そこそこのデータは取得できます。最近では録画機能のあるカメラを搭載した仕組みも出てきました。ましてやEVに関しては、このような仕組みは当然、標準で備わります。

テスラがテスラオーナーに提供しているテスラ保険は、まさにこのようなデータを活用した新しいタイプの保険です。テスラ以外でも、アメリカではモビリティ関連のサービスを提供するモジオ、オートマティック、ズビーといったベンチャーが、テスラと同じような自動車保険を提供しています。

私自身テスラの自動車保険に入っていますが、一般の自動車保険より同等の保証内容で、20~30%安い金額設定となっています。

自動車保険のトレンドも、先のバイタリティプログラムと同様、正しいことを行っている人が正当に評価されるというロジックですから、ますます増えていくでしょう。

ほかにも、データに基づき、各種保険サービスを次々と生み出していくことで、大成長を遂げた中国の保険会社があります。「平安(ピンアン)保険」です。

ピンアン保険は1988年に、社員13人でスタートした小さな保険会社でした。しかしデータを活用することで、現在は170万人以上のスタッフを抱え、売上高は日本円で約15兆円にまで拡大。

GAFAとは異なり、あくまで独立系の企業が、データを活用することでここまで成長できるのです。ピンアン保険の事例は、これからデータ活用を考えている金融サービス会社など、保険会社にとっては、大いに参考になることでしょう。

同社のデータ活用のスキームは、スマートフォンで個人の属性データを取得したり、日々の生活スタイルのデータを取得することで、人が行うよりもより正確に、安い金額で同等、もしくはそれ以上の内容を保障する商品を提供します。

生命保険、オンラインによるサービス提供がもともとはメインでしたが、次第にオフラインのサービスにも進出し、メディカルドクターの派遣や遠隔診療といった医療サービスも提供。さらに生命保険にとどまることなく、健康保険、年金保険、損保保険にサービスを拡大。現在は、銀行、投資、決済といった包括的な金融サービスを提供する巨大なピンアングループとして、存在感を示しています。

ここまで急成長できた理由は、データを活用したからにほかなりません。これまでは保険に申し込む際、病歴や現在の健康状態など、事細かく書類に記入し、提出する必要がありました。場合によっては、新たに健康診断を受ける必要がある商品もあるでしょう。

一方、ピンアン保険ではこのような煩雑な手続きは一切ありません。スマートフォンでちょっとした入力を行うだけで、膨大なデータに基づき、保険の審査をAIが瞬時に判断。是非を、すぐに表示します。

住友生命保険が提供している「Vitality(バイタリティ)プログラム」も、ピンアン保険やアップル保険が提供しているサービスと近い、保険のデータ活用という観点から大いに参考になります。

バイタリティプログラムでは、利用者の健康状態や運動の状況により、4つのステータスに選別。ステータスに応じ、保険料が上下します。

住友生命保険では2019年からスタートしていますが、バイタリティプログラムの仕組みは、かなり以前からあります。南アフリカの金融サービス会社、ディスカバリーが1994年に「Discovery Vitality」として生み出したのが起源です。その後アメリカのボストンにあるジョン・ハンコックという保険会社が採用。ようやく日本にも入ってきた、という流れです。

住友生命保険はプロモーションにタレントのバナナマンさんを採用していますが、運動することでメタボを解消し、健康になる。さらに、保険料も安くなる。そのようなサービスであることを打ち出しているのでしょう。

まさにそのとおりだと思います。バイタリティプログラムは、利用者、保険会社両方にとってメリットの大きいサービスですから、お互いウィン─ウィンになるのです。こういった経済学的に意義のあるデータを活用した同様のサービスは、次々と出てきてほしいと願っています。


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