2021/06/28 07:32

新型コロナの感染拡大による巣ごもり需要の拡大を背景に、2020年度は家具やインテリアなどの販売が例年に比べて非常に好調な推移をみせている。帝国データバンクの調査では、通期予想を含めた2020年度の家具・インテリア販売市場(事業者売上高ベース)は前年度から6.1%増の1兆5000億円となった。ニトリやIKEAなど好調な大手各社が業界全体をけん引する形で、過去最高を更新する見通しだ。

 家具業界は昨年5月の緊急事態宣言により、一時的な店舗営業時間の短縮や休業、来客数の減少に見舞われたケースも多く、宿泊業など一部法人向け需要も急減するなどマイナス要素もあった。他方、外出自粛を余儀なくされたことから在宅時間が増え、家庭内の日用品など生活雑貨やインテリア用品、家の中を整理する収納家具などの売り上げが大きく伸びた。また、都市部では自宅のテレワーク環境を整えるためのオフィスワーク家具の販売量が大幅に伸びるなど、コロナ禍を機に新たに生まれた需要を取り込めたことも追い風となった。

総務省の各調査によれば、家具や寝具、ホームインテリアなどへの支出額(12カ月移動平均値)は、総じて前年を上回る水準で推移している。特に一般家具はリアル店舗・ネットでの購入を含め、19年の消費税増税による駆け込み需要から反動減となった9月を除くすべての月で前年から支出額が増加した。

 コロナ禍での在宅勤務をはじめ、自宅で長時間を過ごす新しい生活様式が定着したことで、自宅の仕事環境の整備や、普段の生活の中における「快適性」を重視する傾向が強まった 。そのため、ワークチェアやベッドフレームなど比較的高単価な物から、マットレスなど寝具、インテリア雑貨など、身の回り品の購入意欲が高まったことも要因だ 。昨年5月から国民全員に実施された一人当たり10万円の定額給付金が支給されたことも、消費者の購入意欲を後押ししたとみられる。

こうした外部環境を背景に、家具販売各社では特に低価格帯に強みを持つ大型量販店、EC販売分野に特化した家具店で、前年度から大幅な増収となる企業が相次いだ。家具・インテリア製造小売(SPA)最大手のニトリは、2021年2月期の連結売上高が前期比11.6%増の7169億円 となった。在宅時間の増加を背景に、収納整理用品や台所用品、テレワーク用のオフィス家具まで幅広いアイテムで販売が伸び、年間を通じて前年同月から10%以上売り上げが増加 するなど好調だった。

 北欧家具のイケア・ジャパンも、20年8月期は前年から2.7%伸び867億円 。グローバル売上高は前年比4%減の396億ユーロ(約5兆円)と落ち込むなか 、国内事業は来店客の増加もあり健闘。ホームセンターのナフコにおける家具販売事業も6.7%増の475億円 と伸びた。ソファーやデスクなどインテリア全体を提案する「トータルコーディネート」という考え方が浸透するなか、一通りのアイテムが手ごろな値段で買い揃えることが可能な大型店舗の売り上げが好調だった。

 コロナ禍でリアル店舗に足を運べないといった事情も後押しし、EC販売も大幅に伸びた。D2C(direct to consumer)業態として「LOWYA」ブランドを展開するベガコーポレーション は、前年を大幅に上回る業績を確保した。ネットでの売り上げは、例えば最大手のニトリでも前年比で50%以上も増加 するなど店頭販売を凌ぐペースで成長を続ける。従来のEC販売で売れ筋となった小型家具やインテリア雑貨だけでなく、デスクやベッドなど、単価と利益率が高い大型家具をネットで注文する土壌が消費者に形成されたことも大きい。

他方で、好調な大手とは対照的に高級家具店や町の家具店は苦戦する。規模別では、年商10億円以上の大・中型店舗の約半数が前年から増収となる一方、大型店でも高級家具店や、セレクトショップをはじめアッパーミドルの価格帯を得意とする家具店は業績が伸び悩む。大規模ショールームや自前のネット販売チャネルを持たない小型店舗も増収の割合が低位なほか、零細店舗では売り上げ伸び率の平均が1割超のマイナスとなった。コロナ禍で家具・インテリアの買い替え需要は増加したものの、客足の多くが低価格帯に流れ込んでおり、こうしたラインナップに勝る大手やEC専門店と小規模店で業績の二極化がより鮮明となっている。

 こうしたなか、2021年度の家具販売は引き続きニッチな高級家具市場と低価格家具の二極化が進行するとみられ、特に低価格市場が占めるシェアは高まりそうだ。インターネットの行動ログ分析を手掛けるヴァリューズ社が、20歳以上の男女約1万人を対象として昨年12月に行った調査 では、21年の家具購入予定者のうち約2割が予算を縮小させると回答した。コロナ禍で買い替え・新調が進んだことでデスクなど大型家具の需要が一巡しているほか、一人当たり10万円が支給された昨年と異なって所得が伸び悩むといった要因も考えられ、21年中の家具需要は一服感が出そうだ。

 他方、低価格帯では引き続き大手の出店攻勢が続くほか、異業態からの参入も相次ぐなど、国内家具・インテリア市場は拡大する低価格家具市場のパイを取り合う厳しい競争が続く。最大手のニトリは、21年中も100店舗超の新規出店を計画。異業態からは雑貨大手の良品計画が、収納からリフォームまで一体的にカバーする大型店を東京・有明に立ち上げ、全国展開を図る。

 また、飛躍的な成長を見せる家具のD2C業態は世界的にも浸透が進む。例えば、欧州市場では豊富な品揃えや配送料無料を武器に急成長を遂げる「ホーム24」(独) 、スタイリッシュで高品質な家具で人気を集めるメイド・ドット・コム (英)など、新興のD2C家具企業が台頭する。こうしたEC販売のシェア拡大は国内でも同様に進むとみられ、競争はより熾烈化していくだろう。そのため、国内は低価格トレンドが止まらない大多数の家具と一部の高級家具とでの棲み分けがより鮮明になる一方、小型・零細店舗では厳しい経営環境が続くとみられる。


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