2021/06/11 07:02

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ひでどん(@komatu00713)です。

2015年に国連サミットでSDGsが採択され、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)でパリ協定が合意されて以降、本格的に企業がサステナビリティに取り組むことが求められるようになった。気候変動や格差などの世界の課題が拡大し、その解決が待ったなしになる中、企業は「世界の課題を生み出す加害者」から「世界の課題を解決する協働者」となることが事業を存続させるうえでの必須条件となりつつある。

その結果、今世界で急速に広がっているのが、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の動きだ。サステナビリティの先進企業は、次々とCO2(二酸化炭素)排出ゼロ(ゼロエミッション宣言)を目標に打ち出している。しかも、企業内だけでなく、取引先を含めたサプライチェーン全体で、ビジネスの根幹から環境や社会に配慮するために、事業ポートフォリオやビジネスモデルを根本から見直し、事業自体を再創造しようとしている。

日本の企業経営者からは、「欧米企業が最近になって『サステナビリティ経営』を声高に叫び始めたが、日本企業は昔から『三方よし』でビジネスを行ってきた」という声をしばしば耳にする。確かに、日本的経営のなかには「売り手によし、買い手によし、世間によし」の三方よしの考えが根づいているかもしれない。

しかし、日本的経営の従来型「三方よし」は、ビジネスがグローバル化、巨大化する状況に適応できていないかもしれない。例えば、あなたの事業の「三方」のなかに、遠いアフリカの鉱山で働く労働者は含まれているだろうか。その「三方」のなかには、あなたの会社が排出するCO2に影響を受けるさまざまな地球上の生物は含まれているだろうか。

今の時代、企業は自社周辺の限定的なコミュニティだけを見渡して「三方」とするのではなく、視点を「世界」「地球」へと広げなくてはならない。世界・地球の「よし」を傷つければ、めぐりめぐって(自分で自分の首を絞めることになり)ビジネス上の大きなリスクとなる。反対に、世界・地球の「よし」を実現すれば、新たなビジネス上の機会となる。

日本企業は環境技術でかつては先進的だったが、もはや過去の栄光である。1970年代の2度の石油危機を機に省エネを促進し、製造業は1990年までの20年間にエネルギー効率を4割近く改善したが、1980年代後半以降は横ばいとなっている。

エネルギー、省資源などのグリーンイノベーションに関する特許件数も、日米欧中韓全体の特許件数に占める割合で見ると、2006年は55.3%だったが2014年には27.8%と大きく落ち込んでいる。

太陽電池では、かつて世界の上位5社のうち4社を日本企業が占めていたこともあり、2005年に47%にまで上がった。だが、2012年には約6%に低下するなど、再生可能エネルギーにおける日本企業の存在感は大きく低下している。

また、「三方よし」の「よし」のとらえ方についても、一面的・我田引水的にならないように注意すべきだ。

「石炭発電は安価なエネルギー源であり、開発途上国の発展に欠かせない。開発途上国の人々の生活の質の向上という『よし』を生み出している」という主張をよく耳にする。石炭火力発電は安価なエネルギーとして、長年、開発途上国の発展を支えてきたというプラス効果はあった。

だからといって、「大きな環境負荷を生み出す」というマイナス効果を無視してよいわけでは決してない。「安価で、かつ、環境負荷の少ないエネルギー源」に変更すべきであり、代替できる物がなければ「それを開発したい」という強い思いが、新しい技術革新につながる。自分に都合のいい「よし」だけに焦点を当てていると、よりよい「よし」を実現する可能性を閉ざしてしまうことになりかねない。

自分に都合のいい「よし」という意味では、自社の一部の事業だけを見て、「よし」を実現できていると思い込んでいる経営者もよく見かける。

「わが社では、社会課題を解決するこんな事業を行っている」と大々的に喧伝しているが、よく話を聞いてみると、その事業は若手社員がボトムアップで始めた小さなプロジェクトでカネもヒトも配置されず、戦略的にも重要案件と位置づけられていない。それ以外の99.9%の事業は、短期利益を目指して相変わらず外部不経済を生み出している、ということがしばしばある。思い当たるところがある人は、早急に考えをあらためてほしい。

サステナビリティ経営とSDGs経営が同義で使用され、「わが社はSDGsの17の目標のうち、15個に貢献している」といった発言もよく耳にする。

SDGsというのは、国際連合が主導して作成した2030年にあるべき社会の目標であり、一種の「分類」である。地球規模での「よし」とは何かを考える際のヒントとしては参考になる。世界中のさまざまなプレーヤーが集まって準備してくれた社会課題のユニバース(全目録)といえる。

しかし、SDGsがあってもなくても、地球規模で起こりつつある課題は、刻々と私たちのビジネスの首を絞めようと迫りつつあり、それに対処しなくてはならない。人類に突き付けられたこの宿題には、2030年を超えて対応しなくてはならないものがたくさん含まれている。

また、SDGsの課題は、企業主導で解決に貢献できる課題もあれば、国やNGOが主となって解決すべき課題もある。一企業ですべてのSDGsの目標に貢献することなどできないし、そうする必要もない。

あなたの企業が対応すべき課題は、自社の強み(ケイパビリティ)を無視しては決められない。また、その取り組みが長期的に企業価値向上につながらなければ、企業が対応することはできないだろう。自社の強みをもとに、最も社会に貢献できる方法は何かを考えることが重要となる。

したがって、既存ビジネスを、SDGsに紐づけて満足するのではなく、SDGsが示唆する迫りくるリスクとその背後にある大きな機会を真剣に考えてみることが重要だ。

あなたの会社が解決すべき課題は何か、自社の強み(ケイパビリティ)、市場の動き(ニーズ)、企業としての意志(ウィル)をもとに、真剣に考えるべき問題だ。

SDGsブームに安易に乗ることなく、自社にとっての「よし」、クライアントにとっての「よし」、世界・地球にとっての「よし」を実現することにリソースを配分してほしい。そこにリソースを配分することは、外野に言われて嫌々やらされる「コスト」ではなく、環境・社会を守りながら事業を成長させる「投資」となるだろう。


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