2021/05/28 07:07



昨今、客数減に苦しむお店が多く、売り上げを上げるために、少ないお客様に少しでも多くのお買い物をしていただこうと、客単価向上のための接客をするお店を多く見かけます。お客様にとっていい提案なら問題ないのですが、必要のない商品をお勧めしたり、お客様の想定予算を超える高額な提案を強引にしたりするお店もあります。

店員の接客に押し切られたお客様にはご購入いただけますが、その後、どうでしょうか?そのお客様は、またそのお店に行くでしょうか?おそらく、多くのお客様は、もうそのお店を利用しないでしょう。そうすると、一時的な客単価は上がりますが、LTV(顧客生涯価値)を考えると、未来の大きな利益を失ってしまいます。

私自身、さまざまな提案をされた経験があります。近所のガソリンスタンドで、給油以外のことを頼むと、必ず高額の提案をされました。冬前にスタッドレスタイヤの組み替えを依頼すると、必ず「新品のタイヤにしたほうが安全です。今なら安くできます」と言ってきます。

それを断ると、「バッテリーが弱っているので交換したほうがいいですよ」。それも断ると、「オイルも点検しましたが、オイルエレメントの交換をしたほうがいいですよ」。これも断ると、ブレーキオイルだの何だのと、本当に次から次へと提案が出てくるのです。「危険です」「安全のために」などと、相手が少し怖がるようなキーワードで提案するので、私も心配になって何度か提案を受け入れたことがあります。

ところが、いつも見てもらっている整備工場に定期点検に出すと、「やらなくていいこと、たくさんやっていますね!」と指摘されました。近所のそのガソリンスタンドには、二度と行かないようになりました。

口コミがLTVに影響を与えることは、珍しいことではありません。先ほどのガソリンスタンドの事例では、そのガソリンスタンドにはもう行かないので、私のLTVがこれ以上伸びることはありません。それどころか、家族や友人、近所の人たちとの雑談で、そのガソリンスタンドの話になったときは絶対にお勧めしません。

それを聞いた家族や友人がわざわざそのガソリンスタンドを使うでしょうか?答えはNOです。なぜなら、近所にガソリンスタンドは他にもたくさんあるからです。

このように、接客応対を体験した顧客以外にも口コミが広がることで、未来の顧客のLTVにも影響が出ます。

特に、身近な人からの口コミは信頼性が高く、影響力が大きい。近年は、インターネットの口コミも、お店を利用するかどうかの大きな判断材料となっています。悪い書き込みがされているお店をわざわざ使おうとは思いません。客単価が高いお店ほど、この傾向が強くなります。

一方、信頼のおける人からのいい口コミは、未来の大きなLTVの獲得につながります。1人の客単価は小さいけれど、LTVは大きい。口コミや紹介によって、LTVはとんでもなく大きくもなれば、なくなってしまうこともある。このことを肝に銘じて、お客様対応にあたっていただきたいと思います。

このようなお客様の心理を、アメリカの経営学者で「近代マーケティングの父」と呼ばれるフィリップ・コトラーの「購買意思決定プロセス」を用いて見てみましょう。

次の図をご覧ください。

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ポイントは、「②情報検索」の段階で上位に思い浮かべてもらうことです。

例えば、明日はお取引先様とのわりと気軽な会食だとしましょう。あなたは会食のお店選びを任されました。自社付近のお店で、予算は1人5000円以内。高級店は選べませんが、センスが問われる仕事です。

このとき、まず頭に思い浮かぶのは、「過去の体験」です。自分が過去に、5000円程度の予算で、自社の付近で行ったお店のなかでも、「いい記憶」のあるお店を思い浮かべます。最初に思い浮かんだお店を選ぶ可能性が最も高く、もしそのお店を選ばない場合は、次に思い浮かんだお店を選ぶ可能性が高くなります。

自分で思い浮かぶお店から選ばない場合、次にとる行動は、信頼できる人から情報を得ることです。「そういえば、スタッフのAさんはグルメ通で有名だったな。彼女にお店を聞くのがいいな!」という具合に情報を収集します。

しかし、残念ながら予算などの関係で彼女が推薦するお店を選べなかったら、その次は外部情報に手を伸ばします。ネットや情報誌などの情報です。そのなかから、ユーザーの評価が高いお店を選ぶことになるでしょう。

このような流れで会食のお店を決めるわけですが、過去の体験で「悪い記憶」のあるお店を選ぶことはあるでしょうか? 最初の段階で、確実に除外しますよね。そのお店には、上司やお取引先の方は行ったことがないかもしれません。しかし、あなたの過去の体験によって、上司やお取引先様がそのお店に行く機会はなくなります。

もし、会食の席で「悪い記憶」のお店について話すことがあれば、それが悪い口コミになって、その場にいた人はそのお店を利用しようという気がなくなります。

次のポイントは「⑤購買後の行動」です。この段階で「いい記憶」に残れるかどうかで、次の機会の「②情報検索」で上位になれるかどうかが決まります。

「いい記憶」に残るかどうかは、①商品の品揃え・品質と価格のバランス、②店舗環境(雰囲気・什器や設備・音・匂い・清潔感・室温・感染予防など)、③接客応対(出迎えから会計、見送りまで)などで決まります。

特に記憶に強く残るのは接客応対です。接客応対でお客様を不快にさせてしまうと「悪い記憶」になり、「除外キーワード認定」されてしまいます。1度そうなると、もうご利用していただくチャンスは皆無です。そうならないために、まずはお客様を不快な気持ちにさせないことが大切です。



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