2021/05/21 06:34



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ひでどん(@komatu00713)です。

どの商品も買い手にとっては大差がないため、売り手が熾烈な価格競争にさらされ、結果買い叩かれてしまうような状態を「コモディティ化」と言います。市場が成熟し、製造技術がどこも総じて高くなると、売り手はこの問題に直面します。

このコモディティ化は、誰にとっても他人ごとではありません。人のスキルや経験も「コモディティ化」してしまうことがあるからです。投資家であり経営コンサルタントの故・瀧本哲史氏は、2011年の著書『僕は君たちに武器を配りたい』(講談社)の中で、次のように指摘しています。

「『コモディティ化』は部品だけの世界の話ではない。労働市場における人材の評価においても、同じことが起きているのである」

必要とされるスペック(知識や技能)が明確であれば、多くの人がそこに向けて努力をします。例えば、簿記の知識があって英語の読み書きができる人材のニーズが高いとわかれば、その技能を習得しようとする人がたくさん現れます。

すると、はじめは希少だったそうしたスペックの人材が、やがては世に溢れコモディティ化するタイミングが、遅かれ早かれ訪れます。かつては高給取りだった人も、数多くいるライバルたちとの価格競争に晒されて、その恩恵にあずかることができなくなってしまうのです。

インターネットの普及と発展に伴い、英語をはじめ専門的なスキルを習得するコストは、かつてないほど低くなっています。

英会話のレッスンは今やオンラインなら1回数十円で受けられます。ほとんどどんなジャンルでも、第一人者による学習のノウハウが、ブログやYouTubeなどで無料で公開されています。このような時代にあって、人のスキルがコモディティ化するスピードは、今後高まる一方でしょう。

さらに、必要なスペックが明確に定義できる仕事は、今後ますますAIが代替していくようになるでしょう。すでに、法律文書のチェックなど高度な専門知識を有する作業も、AIに代替され始めています。そんななか、スキルのコモディティ化は、加速こそすれ減速することはあり得ません。

そんな時代にあって、人材として必要とされ輝き続けるために、私たちはいったいどんな備えをすればいいのでしょうか。

それを紐解いていくのには、マーケティングの考え方が役に立ちます。なぜなら、マーケティングの実務家たちは、古くからこの「コモディティ化」の問題と向き合ってきたからです。

カギはマーケティングの「4P」ならぬ「6P」
テレビやインターネットで広告され、店頭で目にする商品のうち、「良くない商品」はどれくらいあるでしょうか。見つけるほうが困難、なくらいではないでしょうか。例えば、コンビニに行ってペットボトルのお茶を数種類買ってくるとします。その中で「これは良くない」というものはほとんどないはずです。

これこそがまさに、「どの商品も買い手にとっては大差がない」という状態、つまり「コモディティ化」です。今日、多くの商材において実際に起きていることです。

こうなると、ただ単に「良い商品」をつくるだけでは競争に勝つことはできません。「良い商品」に対する考え方を少し変えなくてはならないのです。

マーケティングを勉強したことのある方なら、「マーケティングの4P」を聞いたことがあるでしょう。Product=商品、Price=価格、Place=販路、Promotion=宣伝の4つのPを、それぞれ顧客起点で最適化していきましょう、という考え方です。

これはとても便利な考え方なのですが、なにぶん1960年代に提唱されたものなので、今日のビジネスを考えるには不十分なところがあります。

そこで、これを代替する新しい考え方の枠組みが、これまでいくつも提唱されてきました。そんな中の1つである「マーケティングの6P」を紹介します。実際にはこの「6P」にもいろいろなバリエーションがあるので、さらにそのうちの1つということになります。

6Pと4Pの違いは、「Product」がさらに3つに細分化されていることです。つまり、Product=機能・品質、Proposition=提案の切り口、Pack=パッケージです。

このうち、Productは、機能・品質の面から見た商品やサービスの良さです。例えば、ミネラルウォーターの「い・ろ・は・す」であれば、水そのもの成分がもたらす効能と、徹底的に管理された品質がこれにあたるでしょう。工業製品でいうところの「スペック」です。

Propositionは、「命題」「提案」などと訳されますが、「提案の切り口」と考えるとわかりやすいでしょう。「い・ろ・は・す」は環境に優しいボトルが1つの売りで、それゆえに私も愛飲しているのですが、この時私は、水の機能や品質、つまりスペックではなく、「提案の切り口」の良さを買っていると言えます。

Packはその名の通りパッケージの良さです。「い・ろ・は・す」のパッケージは、ネーミングの妙を含め、とても現代的で洗練されています。気になる素敵な異性や同性がいるジムでトレーニング中に飲むのであれば、見たこともない商品の、安っぽいパッケージでは格好がつきません。その点、「い・ろ・は・す」の洗練されたパッケージなら安心です。

人材としての価値にも「提案の切り口」を考える
「マーケティングの6P」では、商品の良さを「機能・品質の良さ」「提案の切り口の良さ」「パッケージの良さ」に分解して考えました。

スペックが明確な人材の価値は、商品で言うと「機能・品質の良さ」に置き換えられるでしょう。多くの消費財や耐久消費財でそれがコモディティ化してしまうなか、マーケターがとった手段は、そこに「提案の切り口の良さ」を付け加えることでした。「環境に優しい」をうたった「い・ろ・は・す」の提案の切り口を思い出してください。

これを人材の価値に置き換えて考えるとどうでしょう。簿記の知識があり英語の読み書きができる、などといった、必要とされるスペックをしっかり身につけることに加えて、「営業の視点で売上も強く意識することができる、オフェンス型の会計の専門家」などという「独自の提案の切り口」を持つのです。

このような「うたい文句」は、仕事に向き合う上での哲学であり、自分自身の人材としてのコンセプトとも言えます。そうしたコンセプトを持つことで、たとえスペック面での人材の価値がコモディティ化してしまっても、他の人から一歩抜きん出ることができます。

そうした独自の切り口、人材としてのコンセプトは、スキル自体が古くなってしまったり、それを自分自身で上書きした場合でも活かし続けることができます。

「営業の視点で売上も強く意識することができる、オフェンス型の会計の専門家」なら、同じコンセプトを保ち、それを強化しながら、事業部の司令塔である「ファイナンスコントローラー」を目指すことができます。さらにステップアップし、財務のプロとして経営の意思決定に参画する「CFO(Chief Finance Officer)」になっても、その独自の切り口は強みになるでしょう。

もちろんこれは、会計の専門家だけにかぎった話ではありません。たとえば以下のような「人材としてのコンセプト」が考えられます。

・「ビジネス視点でプロジェクトを俯瞰できる」ITエンジニア
・「事業担当者並に事業を熟知する、を信条とした」人事担当
・「守りばかりではなく攻めもできる」企業法務
商品のみならず、人材の価値もコモディティ化していく時代です。明確なスペックに落とし込めるスキルは、次第にAIに代替されていくことも考えられます。

そんな時に何より考えなくてはならないのは、周りから必要とされる「自分の人材としてのコンセプト」なのです。

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